2016年7月15日金曜日

徒然草 今も昔も変わらない

月が円を描くのは一瞬である。この欠けること光の如し。気にしない人は、一晩でこれ程までに変化する月の姿に気がつかないだろう。病気もまた満月と同じである。今の病状が続くのではない、死の瞬間が近づいてくるのだ。しかし、まだ病気の進行が遅く死にそうもない頃は、「こんな日がいつまでも続けばいい」と思いながら暮らしている。そして、元気なうちに多くのことを成し遂げて、落ち着いてから死に向かい合おうと考えていたりする。そうしているうちに、病気が悪化し臨終の間際で、何も成し遂げていないことに気がつく。死ぬのだから、何を言っても仕方ない。今までの堕落を後悔して、「もし一命を取り留めることができたら、昼夜を惜しまず、あれもこれも成し遂げよう」と反省するのだが、結局は危篤になり、取り乱しながら死ぬのである。世に生きる人は、大抵がこんなものだ。人はいつでも死を心に思わなければならない。 


 やるべきことを成し遂げてから、静かな気持ちで死に向かい合おうと思えば、いつまでも願望が尽きない。一度しかない使い捨ての人生で、いったい何を成し遂げるのか。願望はすべて妄想である。「何かを成し遂げたい」と思ったら、妄想に取り憑かれているだけだと思い直して、全てを中止しなさい。人生を捨てて死に向かい合えば、煩わしさや、ノルマもなくなり、心身に平穏が訪れる。

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